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The Social Atom

ここ最近、妙にはまっている複雑系を社会物理学として世に広めたマーク・ブキャナン氏の書籍『人は原子、世界は物理法則で動く』を読了。これまた非常におもしろかった。特に社会現象のバックグラウンドに脈々と流れている複雑系の特徴ともいうべき自己組織化とパターン(べき乗則)の原理が如実に現れている具体的な事例を中心に備忘録として記載してみます。

荒れ果てたタイムズスクエアは、なぜ新しく生まれ変わったのか?

この問いに答えるために、以下のような観点から説明しているのは、まったくもって目から鱗の新しい考え方でした。

そもそもブキャナンは、人間の行動特性を

①合理的な計算機ではなく、滑稽なギャンブラーである
②適応性のあるご都合主義者だ

という2つの原則を持つものだと捉えることから始まります。


■適用する原子

<株価は予測できるか?>

市場への参入者が不十分で、実際に使われている戦略を寄せ集めても、すべての戦略をカバーしきれないとする。このときには市場の動きを「予測する」余地がまだ多少残っていて、そのために市場の外部にいる人々は、まだ利用できる戦略を使って当然のように参入しようということになるだろう。

だが新たな参入者が、新たな戦略を実行する事で、予測可能な余地の一部を実質的に消失させていくことになり、市場への参入者が増加しつづければ、ついに予測の余地は完全になくなってしまい、市場はまったく予測不能になる。もちろんこの時点で、もはや利益をだせなくなったために、市場からの退出を決断する人も出てくるだろう。

こうなれば利用できる戦略が市場に生まれるわけで、市場は再び、多少は予測可能な状態に戻る。この論法でいけば、市場は限定的な予測であれば、容易ではないとはいえ不可能ではなく、そのような状態になっているのを検出することはできるという。

ただし上記のような予測がそう簡単にできないのは、社会の原子である人間が、社会と完全に切り離されているわけではなく、二人の間、あるいは集団の中で活動することで、確実に生じてしまう”模倣”という人間の特性に影響されてしまうからだという。


■模倣する原子

<ペンギン的思考と社会のなだれ現象>

ペンギンは、日々一種のジレンマに直面しているという。青く冷たい海面下から餌を獲得する必要があるが、シャチに襲われ非業の死ということも十分にあり得る。そんな中、ペンギンたちは毎日最初に餌を探すときは”待機作戦”をとるわけで、ロシアンルーレットならぬ、シャチアンルーレットに挑戦しているごときだそうだ。

ペンギンたちは、何時間もじっとたっているが、最後に破れかぶれになった何羽かが飛び込み、海が朱に染まればそのままじっとしているし、何事もなければすべてのペンギンが餌を探すために海へ飛び込む(最近の調査からは、事態を進展させよとして、仲間をかなり強く押すペンギンもいることもわかってきているという)

概して人は、自分の生き方を自分で決めているものだと考えてしまうが、本当は上に書いたペンギンたちにそっくりではないだろうか。情報が少ないときは他者を観察して、どんな断片的な情報でも可能な限り集めようとする。評判の高いレストランで食事をしたいし、企業がどんどん進出している地域はやはり気になるし、街中で20人が空を見上げていれば、空を見上げずにはいられないだろう。

ただこの模倣のせいで分別をなくしてしまう事も日常茶飯事で、最近の震災の影響による水、トイレットペーパーなどの買い占めはこの典型的な事例だと思う。そしてこの社会のなだれ現象を原子物理学のアプローチから見れば、ある法則があることに気づくという。

今回のアラブ諸国で発生した暴動を事例として考えた場合、例えば100人の市民がいたとして、各自の暴動に加わる”閾値”が0から99までのいずれかの値だったとしよう。ある人は0、別の人は1、さらに別の人は2というように異なる値になっている。

この場合は、必然的に暴動は大きくなる。閾値が0の過剰分子が暴れだせば、閾値1の人が、つまりだれか一人が暴れているのを見ると、閾値の低い人から五月雨式に引き込まれ、こうして騒ぎはどんどん拡大していき、最後には高い閾値の人までも巻き込まれてしまう。

ここで注意しなければならないのは、これらの閾値がどのような組み合わせになっているかの細部によって、結果的には不相応なほど大きな差が生まれてしまうことがあるという。このケースでは、閾値が1の人をいなくしてしまえば、口火を切った人物がそこらのものを壊しているだけで、二番手になって騒ぎに加わろうとする人が一人もいなければ、連鎖反応は生じない。したがって一人の性格がごくわずかに変わるだけで、集団全体に非常に大きな影響を与える事がある。

社会の”なだれ現象”を原子物理学の目で見れば、伝えようとしている現象が、暴動であろうと、株式市場の暴落や買い占めであろうと、簡単に回避するすべのないことがわかる。つまり正確で詳細な予測がほぼ不可能なのは、それぞれの閾値が異なり、お互いに影響をし合っている以上、どんな些細な事柄でも大きな構図の中に入り込んで、影響を及ぼしてしまうためである。例えば暴動のようなケースでは、群衆のなかにまともな人間が2、3人いるかいないかといった些細な差が、窓ガラスを数枚たたき割られるか、街全体が火に包まれ、地球規模にまで拡散してしまうかの違いになってしまう事もあるという。

ここまでくるとタイムズ・スクエアのたどった経緯が見えてくるような気もするが、スマートフォンを購入する若者や、ブランドの流行を追い求めるような人間の行動特性である”模倣”とは違うレベルの相互作用を、まだまだ検討する必要があるという。

続きの以下3つは、次回ということで!

■協調する原子
■憎しみ合う原子
■金持ちがさらに豊かになる理由(パレート最適となる物理法則)